基本情報
患者
50代前半の女性。主婦。
主訴
足の関節付近や足の甲などが赤黒く腫れて、軽く触れるだけでも痛む。
既往歴
甲状腺疾患の既往。20代前半で甲状腺亜全摘の手術を受け、一時安定していたが、40代前半で再発(バセドウ病と橋本病を併発)。以後、投薬によるコントロールを継続中。
診察
現病歴
数年前から年1〜2回、季節の変わり目に同様の症状が現れて、1〜2カ月継続する。
手首や耳の後ろなどにも同様の症状が飛び火して現れる場合もある。
皮膚科の医院で診てもらったところ、蜂窩織炎や痛風による炎症ではなく、説明がつかないとのことだった。
今回は2日前から左足の内くるぶしの下と足の甲の真ん中が腫れてきた。
靴や靴下を履くと腫れと痛みがひどくなる。
足の関節も腫れて動きが悪く、歩くのに支障がある。
眠っているときに患部が布団などに触れているだけでも腫れて痛むので安眠できない。
所見・触診
患部に熱感があり、いわゆる炎症性の反応が起きていると考えられる。
問診の結果、足の局所的な痛み以外にも殿部から太ももにかけての痛みやしびれの症状もあることが判明。
触診の結果、腰殿部から大腿部、下腿部の筋緊張、血流の滞り、むくみを示す反応があった。
見立て・評価
東洋医学的な問診と体表観察から、感染症による急性症状や、足に合わない靴や運動による圧迫負荷の線は考えにくい。
足の腫れ・炎症が目立つが、坐骨神経痛の兆候があることから、下半身の血流不全が両方の根っこにあると考えることもできる。
腰からお尻、脚にかけての神経の通り道に負担がかかっている状態であり、その負担を取り除く施術に加えて、患部につながる筋肉などを重点的に刺激することで
効果が期待できると判断した。

初回の施術前に撮影。左足首の関節と左足の甲が赤く腫れて、赤黒く内出血している箇所も見られる。
経過・結果
施術内容
初回と、その翌日の2回目は、腰からお尻の筋緊張緩和と下半身の血流改善を意図して、腰の背骨付近や仙骨部、お尻から太ももへの鍼(一部、灸頭鍼)を行った。また、腫れている足首や足の甲につながっている骨間膜を刺激するため、すねのツボに深刺・置鍼した。
初回の5日後の3回目は、症状が落ち着いてきたため施術内容を絞って、すねのツボへの鍼刺激のみ継続。
首肩こりが気になるというので首から背中にかけての鍼刺激を中心に行った。
経過・結果
初回施術後、患部の腫れはまだあるものの、赤黒い色は薄れて全体的に明るい赤色に変化した。
その翌日、2回目の施術を行った際、腫れと赤みはさらに目立たなくなっていた。
患者さんから「足首が動かしやすくなった」「痛みが軽くなってよく眠れた」とのコメントをいただいた。
3回目の施術時には、左の足首と足の甲の状態は健常な右側とほとんど区別がつかない状態であった。
考察・まとめ
私は医師ではないので、現代医学的な診断を下すことはできませんが、問診と体表観察で得た情報から、全身の筋緊張や血流を整えるための施術の一部として、患部につながる筋肉や結合組織を鍼で刺激する手技を加えることで改善が見込めると判断し、実際に効果を出すことができた事例です。
現代医学では外科手術や強力な薬剤などを用いて人の身体に大きな変化を起こせる半面、診断が確定しないと治療方針が立たないので、結果的に患者さんや家族から「苦しんでいるのに何もしてくれなかった」と思われても仕方ないような状況になってしまう場合もあります。
一方、鍼灸には「診断即治療」という言葉があります。問診や体表観察から患者さんの体質を判断し、すぐに施術を行うという考え方です。
また、鍼灸の施術は「診断→治療」という一方向の流れではなく、患者さんの反応や身体の変化を察知しながら施術内容や刺激量の調整を繰り返すという意味も、この言葉には含まれています。
病名が決まらないと何もできないのではなく、どんな場合でも患者さんの状態に応じて、持っている技術と道具でできることを行うのが鍼灸師の強みかと思います。そのようなあり方を目指しています。
ただ、明らかに現代医学的な診断・治療を受けたほうが早くよい結果が得られる場合も多々あります。そのような場合は正しい治療の機会を逃してしまうことがないよう、アドバイスさせていただいております。
伝統医学と現代医学、互いを補い合うものとして、うまく使い分けていただければと思います。
なお、3回目の施術で患者さんの主訴が首肩こりに変わったのは、下半身の症状が落ち着いた分、これまで潜んでいた他の部位の症状にフォーカスが移ったためと考えられます。多くの患者さんが鍼灸施術を繰り返すうちに、これまで気づかなかった小さな不調を自覚するようになったという経験をしながら、全体として調子が上向きになっていく傾向にあります。

上から順に、初回施術直後、2回目(初回の翌日)の施術後、3回目(初回から5日後)の施術後の状態。
